旧八百津発電所
いにしえの息吹が眠る

旧八百津発電所

岐阜県加茂郡八百津町
旧八百津発電所資料館
2010年初秋取材

無骨で、どこか優しい発電機

 木曽川の上流にひっそりと古い建物が佇んでいる。外観はヨーロッパ風で、大きなアーチ型の窓など、どこか異国情緒が漂う雰囲気である。建物自体は煉瓦作りで、そこにモルタルや漆喰を塗り込めて仕上げられている。ここは明治44年に建設された水力発電所である。平成10年には国の重要文化財に指定されている。

旧八百津発電所資料館 外観
旧八百津発電所資料館 発電機 旧八百津発電所資料館 巨大な碍子

 館内に入ると受付があり、ここで入館料を払う。アーチ状の入り口をくぐって左の部屋へ入ると、まるで巨大なかたつむりのような形をした水車と発電機がいくつも鎮座している。水車と発電機はそれぞれ一機ずつペアとなっている。もとは1号機から4号機まで設置されていたが、予備機であった4号機は福井県の足羽(あすわ)発電所へと移設された。そして驚く事に、その4号機は2010年現在も稼働している。巨大な碍子(がいし)が非現実感を与える。

旧八百津発電所資料館 温度計 旧八百津発電所資料館 機械弁
旧八百津発電所資料館 機械

 日常ではまず目にする事のない機器のディテールやメーター類。これらの無骨な機械が、かつては毎日休む事無く動いていたのかと思うと感慨深い。しかし、アーチ窓やモルタルの白壁というクラシカルな建物の雰囲気が、およそ「発電所」というイメージとはほど遠い不思議な感覚を与える。

旧八百津発電所資料館 放水口発電所 旧八百津発電所資料館 放水口発電所入口 旧八百津発電所資料館 放水口発電所内部 旧八百津発電所資料館 放水口発電所の発電機

 この発電所の面白い所は、先に紹介した本来の発電所の下に、さらに発電所の放水を利用して発電する発電所を作ってしまった事である。時は大正初期、国の急速な近代化に伴い、電力の供給が追いつかなくなり、それを補う為に作られたのがこの「放水口発電所」である。むき出しになった水路や水車が当時のままの姿を残している。
 こちらの建物は普段は立ち入る事ができないが、受付で係の人に見学させて欲しいとお願いすると中に入れてもらえるので、是非見てみることをお勧めする。

旧八百津発電所資料館 貯水池 旧八百津発電所資料館 建設時の資材運搬坂

 この発電所の建設が決まった当時、ひとつの問題があった。山奥のここまで建設資材の運搬に利用できる道が整備されていなかったのだ。当時、この地域の主要産業は林業であった。山から切り出された木材は筏(いかだ)に組まれ、川を利用して職人達の手で下流まで運ばれていた。そこでその職人達に協力を求め、彼らに資材を運んでくれるよう依頼した。放水口発電所から見える川から続く傾斜が当時の面影をそのまま残しており、苦労の跡が偲ばれる。また、発電に使用する水は目の前の木曽川ではなく10kmもの上流から山の中をトンネルを通して引かれ、発電所の上にある貯水池に一端貯められてから使用された。
 普段何気なくあたりまえのように使っている電気。しかし、その影では多大な努力と歴史の積み重ねがある。この旧八百津発電所は、日本の近代化を支えた当時の空気を感じることができる場所である。

【旧八百津発電所資料館 ご案内】
平成30年12月29日より、建物の耐震性の問題により公開は休止されています。

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